Kitchen Tools LABO
2024/06/24受け継がれる職人の技術とアイディアの融合で世界へ
新潟県三条市の木製カトラリーメーカー「マルナオ」
受け継がれる職人の技術とアイディアの融合で世界へ
新潟県三条市の木製カトラリーメーカー「マルナオ」
5月末、新潟県三条市の箸をはじめとする木製のテーブルウェアを扱うメーカー「マルナオ」さんにお話を伺いに行ってきました。
「マルナオ」はワイ・ヨットストア麻布台ヒルズ店で人気の木製カトラリー。「あの繊細なカトラリーがどう生み出されるのか知りたい!」と熱望し、今回の企画に至りました!
上越新幹線 燕三条駅より車で走ること、20分程の山間にオープンファクトリーの隣接するショップが現れます。
豊かな自然の中にたたずむショップファクトリー。大通りから入る道のりは大きなカーブを描き、別世界に吸い込まれてゆくよう。期待感が高まります。
ファクトリーでは、マルナオの創業当時から現在に至るまでの歴史が、過去のプロダクトと共に展示されています。
その横では、職人が実際に作業する姿を見学する事ができます。
箸の先端の仕上げには、繊細な作業が必要なため、各作業台の上にはオシャレなLEDライトが!
「箸づくり」の原点
創業時より木工を生業としてきたマルナオ(旧福田木工所) 。
2000年頃から新規事業として木製雑貨の製造を始め、その中から現在の主力商品である「箸」が生まれました。
固い木を加工し大工道具を作ってきた「福田木工所」以来のノウハウを活かし、日本人が日常で最も使用する「箸」という道具を作ろう、と思い立ったのが、箸作りの原点。
この頃は、使い捨て文化が横行し、箸やスプーンが当たり前に無料で貰える時代で、百貨店で売られる箸も低単価のものが多くなり、なかなか良い箸が手に入らない時代でした。
日本の誇るべき「箸」という文化の価値を高めたい、という日本文化への熱いおもいから製品作りがスタートします。
材料へのこだわり
木材
マルナオは、世界中から箸やスプーンに適した材料を探し、気乾比重※1が高く、黒檀を代表とする硬い木を厳選しています。木は同じ樹種でも土壌や風土によって素性が異なるため、木材を仕入れる地域も厳選しています。
※1 木材を乾燥させた時の重さと同じ体積の水の重さを比べた値で、木材の硬さや強度を表す基準の一つです。
角材や板材を細く切断し、導管内の水分を抜くため、時間をかけて天然乾燥。削っては放置することを繰り返し、材料のアバレや反りを軽減し、一本たりとも無駄にならないように努力されています。
この時、できる限り曲がらないようにしておくことが1番重要で、出荷時には木が限りなく落ち着いた状態になっているのだそう。
木を選び、材料として育て上げる。木工所時代から受け継がれる職人の技術や感覚が根付く「マルナオ」だからこそできる、工程です。
また、自然の資源である木材を無駄にしないための工夫も。
特にマルナオの材料とする、強く固い木材は長い時間をかけて育つため、とても貴重。含侵木材※2に加工したり、何かを間に挟むことで歩留まりを良くし、材料を無駄にしない努力を続けています。
※2 木材の耐久性を向上させるため、木材の含水率を下げ、乾燥させ、そこに人工樹脂を注入したもの。
WPC (ウッドプラスティックコンビネーション)
ワイ・ヨット ストアでも取り扱いのある、「上箸 八角 WPC」。よく見かけるデザインのように思いますが、大きく違います。
色のついた部分は、楓の木を乾燥させ、成分の30%の水分・樹脂分などの成分を抜き、そこに強制的に人工樹脂を入れ込み、硬化させています。
年輪の部分には色が入らないので、よく見ると色の入った部分も木材であることが分かります。
70%が木材のため、木の質感を保ちつつ、水に強く耐久性のある素材に生まれ変わります。
表面に色を塗るとはがれてしまいますが、WPCであれば剥がれることはありません。また削り直しができ、メンテナンスが可能です。
良い木材を永く使って欲しいとの思いで、 17年ほど前から採用している技術なのだそう。
リネンを積層したマイカルタ素材
こちらは、特上箸 日本のうさぎに使用されている「マイカルタ素材」。
※日本うさぎはY.YACHT STORE麻布台ヒルズ店にてお取り扱いしております。
リネンを積層し、樹脂で固めて板状にしたもので、現在アメリカとスペインでしか作られていない素材。布地で固めるので粘りがありとても固い。あまりにも固く加工しずらい為、需要が少なく、価格も高い。
素材自体が重いので使用面積を減らし、利休箸のようなデザインに仕上げられています。
こちらはグラミー賞受賞の海外セレブも愛用の品なのだそう!Wow!
象嵌によるデザイン
部品の一部として人工大理石、18金や純銀なども材料として採用されています。
「象嵌(ぞうがん)」といい、穴をあけて、ぴったりのサイズの装飾をはめこんでいます。
なんとお客様のご要望から始まったデザイン。木材と異素材が組合い、ともに育ったかのように一体感のある、素敵な仕上がりです。
自分の箸が分かるよう、色やデザインを施す「マイ箸」は日本独自の文化で、海外のお客様にお話すると大変驚かれるそう。確かに、カトラリーはシリーズで同じデザイン。「マイカトラリー」は聞いたことがないですね。
日々、2食・3食を共にする箸や茶碗が嗜好品であることは、食事の時間を豊かにしてくれます。普段気にすることのない生活の中にも日本人の「侘び寂び」の文化が備わっているんだと気づかされました!
製品へのおもい
「今年は創業85周年、社名を「マルナオ」にして10周年の節目の年。改めて、日本人が食の時間を大切に、日本食を誇りに思って、美味しく食べて欲しい。それに見合う良いお箸を作りたいという思いで製造をしている。」と福田社長は、力強く語って下さいました。
日本の食卓は、世界でも珍しく、様々な食事をしています。日常の食事も手が込んでいて、当たり前に思っている食事が、他国から見ればひとつのアートのように受け取られることも。
当たり前過ぎて、忘れていたことを思い出し、改めて誇りに思うとともに、日常のひとつひとつを丁寧に過ごしたいなと感じました。
節目の年である今年の6月1日、マルナオはフランス・
「ロサンゼルスは、初めて日本食レストランができた土地です。当時はカリフォルニアロールに代表される現地の食材を使ったユニークな料理が多かったが、現在は本格日本食の店が多くあります。本物の日本食が理解され、愛されているのが嬉しいですね。」と笑顔で語る福田社長。
マルナオは直営店に関連する土地のイメージに合わせ、新しい色の「旅するお箸」を販売しています。
ロサンゼルスのショップのOPENに合わせ、今回つくられたのは「LAコースト」。海・空・砂などの自然をイメージしたナチュラルカラーのお箸です。
マルナオの歴史
創業当時
創業者の福田直悦(なおよし)は、仏壇店にて欄間や狛犬などの彫刻を受け持っていました。
戦前頃には、建築需要が高まった時代が訪れ、木造建築の3種の神器のひとつ、墨壺の部品である「墨壺車」の生産を始めます。
1939年に「福田木工所」を創業。彫刻業から大工道具製造業に転じました。
現在のマルナオの社名は、初代直悦の頭文字を墨壺車の円形に商標とし、取引先からマルナオと呼ばれたことに由来しています。
当時、墨壺は墨の載りが良いという理由で、固い「欅」の木で作られていました。これが、現在のマルナオの箸作りに繋がっていきます。
木工からの進化
その後、「福田木工所」の製作する墨壺は評価を上げ、その他大工道具の生産も請け負う中で、後に主力商品となる「糸巻」の生産を始めます。
木製品は繁忙期になると生産が追い付かなくなる為、1960年頃より、樹脂製の糸巻を外部に委託製造し販売するように。
1983年には長男の福田健男が社長に就任すると、プラスチック製品に重きを置き、純粋な木工所からの脱却を図ってゆきました。
原点回帰へ
2000年頃から新規事業として木製雑貨の製造がスタート。その中から現在の主力商品である「箸」が生まれます。
2006年、福田隆宏が社長に就任。箸にとどまらず、ステーショナリー等、積極的に木製品の新境地の開発を進めています。
2009年、社名をマルナオ株式会社に変更。
海外見本市へも多く出展、海外からも高い評価を得、現在ではフランスの有名メゾンでの販売、メゾンの直営レストランやミシュランの星を持つレストランでも使用されるまでに。
さいごに
職人の経験・技術に基づく緻密で繊細な作業に、現在の時代の流れを汲み取ったアイディアや、社長の遊び心が加わったマルナオの製品。
同じ日本人として、心から誇らしく思いました。
今後の展開に期待が膨らみます。
Kusama
Y-YACHTで10年営業職を経験。
出産・育休を経て職場復帰。2021年の春からワイ・ヨットストアのスタッフに加わりました。
夫と娘と柴犬(まめ)との 3人+1匹暮らし。
家族との食事の時間を大切にしています。
「食」にまつわる時間に、役立つ情報をお伝えできればと思います。